4. ヨーロッパと日本のオーケストラの違い
 
「時間を守る」
 
----------その後数えきれないぐらいのアーティストの方とのお仕事をなさって、80年代〜90年代にはヨーロッパのオケとの仕事も、数多く経験されていらしゃいます。ヨーロッパと日本のプロデュースとの違いを何か感じられましたでしょうか。
 
僕はもちろん世界中のオケを知っているわけではありませんが、僕が一緒に仕事をしたいくつかの国での体験から答えます。

 まず、僕の知ってる範囲では、どこの国、どのオケにも共通点がたくさんあります。まず、当然のことですが時間を守るということ。これはオケの側にもわれわれスタッフ側にも同じように要求されることです。第一に“音出し”の時刻を守ること。例えば“10時音出し”と決まったら、われわれスタッフは遅くともその1時間前にはスタジオに入って機材のチェックをすませておきます。オケ側は、決められた時刻までに全メンバーが揃うだけでなく、全員が楽器を出して座り、チューングを済ませていつでも始められるようにするのが10時です。

 次に終わりの時刻を守ること。これは主にプロデューサーである僕の問題です。例えば1時まで、と決められていたら、1時きっかりにおわりにすること。あと3分残っていたら、その3分で録音できるもの、今録音しておかなければならないものを判断して与えられた時間を最大限に使います。そして時間になったらキチンとおわりにします。まずこのことを守って仕事を進めれば、どこの国のオケともうまくやっていけると思います。たいていの場合、指揮者はこのことを僕たち以上に理解してくれています。

 ヨーロッパと日本のオケで違うことは、メンバーひとりひとりが積極的に参加してくれるのは日本よりヨーロッパのオケの方が多い、ということかなあ。でもそれは何年も前の話で、今は日本も違うかもしれないけど。例えば、セッション中に今録ったテイクを指揮者やソリストと聴く場合、多くのオケのメンバーが一緒に聴きに来るのは日本のオケより外国のオケの方が多いです。それともうひとつ、これも残念ながらですが、日本ではわれわれプロデューサーがオケに注文を出すことを必ずしも快く思われないようなケースも以前はありました。「音楽のことは指揮者以外からは言われたくない」というような…。それに対してヨーロッパではメンバーが積極的に僕の意見を聞きたがります。例えば「今の吹き方でバランスは良かったか?」とか「次に演奏する時はどこをどう気をつけたらいいか?」など。この理由は(あくまで比較の問題ですが)、日本に比べてヨーロッパでの方が、プレイヤー、指揮者、プロデューサー、エンジニアなど録音に関わる人たちがお互いにプロフェッショナルとして対等な関係にある、ということを認め合っていること。つまり指揮者がちゃんと振ればプレイヤーはちゃんと弾き、それをプロデューサーとエンジニアがちゃんと緑る。そしてお互いに意見を交換しあう。そういう関係が日本よりできているのではないかと思います。
 
「客の反応をダイレクトに感じたい」
 
----------そのときに、何か思い出に残るエピソードなどありましたらお話いただけますか。
 
そうですね。あるヨーロッパのオケとの録音の時、最後のセッションで、どうしても時間が足りなくなってしまって3分はみだしたことがあります。その時は1分30秒オーバーして終わった時に、指揮者が「あ、申し訳ない。僕の時計が遅れていてタイム・オーバーしていることに気がつかなかった」とフォローしてくれたのですが、終わった瞬間にオケのメンバーはモノも言わずにクモの子を散らすように帰ってしまいました。あれは僕の失敗です。
 
----------たった3分のオーバーで、そんなことになるんですか。 そのような御経験を積み重ねて、金子さんはその後も進化し続けていかれますね。
 
進化というか、クラシック制作部門で合計17年半を過ごした後、1995年に同じSony Music GroupのひとつであるSony Music Foundation に異動しました。これは、レコードビジネスよりもコンサートビジネスの方が客の反応はダイレクトに感じられるのではないか、という思いがあって、自分から志望したのです。SMFでは、コンサート、コンクール、セミナー等の企画、制作、運営に関わりました。